SSだけの過去ログですよ。

注意事項

BLというものが何なのか全く理解せずに書いていますので、何でもオッケーな方のみ読んでくださいませ。
克哉さんは眼鏡を掛けても掛けなくても克哉さんだなあと思って書いています。主人公っていいですね。ハーレムって素晴らしいものですね。
鬼畜眼鏡に愛を込めて。

こんせぷと?

某変態部長さんはガチな人ってイメージです。書き易いのは、私も変態で克哉さんが好きだからでしょうか。
片桐さんは最強です。でも、えろいのは書けません。だって、片桐さんだもの。
秋紀にゃんはショタです。絵で描くのは好きだけど、文章で若さを表現するのってムツカシイネ。
本多さんは鬼畜眼鏡のなかでナンバー2に好きなキャラです。克哉さんに泣かされるのがお似合いです。
澤村さんは何故かお気に入りのキャラです。小物っぽいところがタマラナイんだと思います。
Rさんはネタキャラです。克哉さんと物凄い近い距離にいる人ですので、実に羨ましい限りであります。
太一君は書けばシリアスっぽくなってしまうので、まだうpれませんですよ。
松浦さんは上手く料理する自信がないのですが、克哉さんと絡ませると面白そうですねえ。

テキスト

とりあえず旧作が一番上です。カテゴリ分けとかもやってみます。
Character: A=Aki G=Katsuya(Glass) H=Honda K=Katagiri M=Mido N=Katsuya(No glass) R=Mr.R S=Sawamura text list
メガホンSS「鬼畜彼氏。」
みどかつSS「素直におなり」
N克哉と澤村SS「いじめ、ダメ、絶対。」
メガミドRで「澤村紀次の災難」
御堂×眼鏡→片桐「天国か地獄」
眼鏡克哉ハーレム?「共演の佳日」
メガホン風味なほんかつR後「俺の克哉はひとりだけ」
克克×メガホンな本多「かつかつテクニック」
メガミドノマ「ロリータ 1(マイ・フェア・レディ〜ファーストキス〜 改題)」
メガミドノマなロリ部長続編「ロリータ 2(マイ・フェア・レディ〜2nd round〜 改題)」
御堂視点→N克哉「この酔っ払い共奴!」
メガアキ「はじめてのひと」
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旧↓新

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メガホンSS「鬼畜彼氏。」

20100626
「克哉ぁ」
本多が目を潤ませて見上げてくる。逞しい筋肉を床の上に這い蹲らせて好きに嬲るのはいい気分だが、俺は他の人間をこんな風に虐げても快感を得られるような変態ではない。
本多の表情はそそられる。俺を非難する時も、抗議する時も、怒りをぶつけるときでさえも、俺を愛していると雄弁に語っているのだから。
どんなに乱暴に犯しても、どこまで痛めつけても、どんなに勝手をしても・・・俺のくだらない人間不信は思っていたよりも深刻で、犠牲になるのは可哀想な本多と決まっていた。
「俺はお前の恋人・・・だろう?だったら・・・」
なあ本多、どうして俺なんかを好きなんだ。可哀想な本多。いくらお前が鈍感でガサツでウザくたって、もっと優しい恋人を持つこともできただろうに。
堅く狭いケツの穴を無理矢理拡張して、うつ伏せに抑え込んだ身体を犯しながら、虚飾も虚勢もない素顔で、俺は本多を憐れむのだ。心底。
獣のような息遣い、押し殺せない嬌声が漏れ、皮膚の下で筋肉が蠢き、汗ばんだ背中が上下するのを眺め、本多の乱れる心中を推し量りながら、昂ぶる肉体を制御し慎重に征服しながら、ため息を漏らした。畜生、今夜も眠れそうにない。

「鬼畜な克哉より優しい克哉がいい・・・」
それまでぶつぶつ呟いていた寝言を無言で聞いていた克哉は、本多の切羽詰まった懇願に眉を顰めた。
誰が鬼畜だ、誰が。折角起こしにきたというのに気分を害されて、魘されているらしい本多を放置してキッチンに戻った。
本多の為にしてやったことの殆どは自己満足とはいえ、全くそうと理解されていないとなれば、自己憐憫を覚えるのも当然だろう。
恩着せがましいのもどうかと思い、わざと雑に盛り付けていた朝食を、まるで料亭のように完璧なバランスに盛り付けなおすことにした。
情けない。悔しい。苛々する。だから俺は本多に「優しい克哉」を演じてやることにした。たっぷりと後悔させてやる、と克哉は笑みを浮かべた。

「・・・ああ、・・・いってらっしゃい」
混乱しきった表情の本多を眺めるのは楽しい。掌で思うままに転がされるのが似合う男だと思う。さて、これもひとつの愛情といえるのかもしれないと思うと、心にゆとりができたようで安心する。
「ああ、そうだ。店を予約しておいたから―」
というのはハッタリだ。今日これからコネでも使って割り込ませればどんな高級店だろうが老舗だろうが、なんとでもなるだろう。
本多が望むように、わかりやすい優しさを演じるのは容易い。他人の心を推し量って、心を殺してしまえばどんな自分にもなれることを、俺は誰よりも知っているだろう。
なあ本多、あの頃の俺を知っているお前がそれを望んでいるなんて思いたくないけれど、今の俺には素の自分でお前に全てを晒すことなんて出来ないんだ。
お前が信じさせてくれるなら・・・からかいの中に切実な感傷を混ぜ込んで、本多に微笑んでみせる。克哉はそんな感傷を振り切るようにして、家を出た。
落ち着かない様子の本多が気になって、差し入れを持っていくことになろうとはこの時点で計画すらしていなかったことは言うまでもない。

「お前、ヘンだぞ」
感情を露わに、本多が睨みつけてきた。朝も、昼も、さっきまでのディナーだって。俺に対してはどこか鼻が効くらしい本多はいぶかしむように視線をあわせて克哉の目の奥を探る。
「絶対におかしい!」
そうだな本多、鬼畜なお前の彼氏は絶対にこんなことはしないだろう。偽りの優しさに混乱し続ける本多の姿を見ていると、愉快で堪らない。
けれどその一方で、日頃からしてやりたくても出来なかった「優しい」行為がつぎつぎと思い浮かんでくるのだから、克哉は心底おかしくなって、とうとう声を上げて笑ってしまう。
ほんの少しの間なら、気付かなくてもいいと思う。照れくさくて、俺らしくないからと躊躇っていたことも、今なら言い訳ができるから。手段と目的が微妙にずれてきていることに気付いて、克哉はぼんやりして遅れがちな本多を急かした。

「いいだろう?本多・・・今日はおまえの望むことなら、叶えてやりたい気分なんだ」
本多の日頃の願いと言えば、アレに決まっている。克哉を抱きたい、その願いを受け入れるかどうか、克哉は既に決めたことを変えるつもりはなかったのだが、寸止めにしてネタをバラしてもいいし、本多がそこまで自分本位になれないと知っていたから、あまり深くは考えずに挑発したのだった。
「いやか?」
ひどく甘く、囁いた言葉の中に、克哉は自分の本心を見た気がして、戦慄した。
もしも本多が俺を抱いたなら、本多の好きなようにさせたなら。俺がそれを許したなら・・・克哉は今までの克哉のままではいられなくなるだろう。
その想像は逆説的にふたりの未来を予感させた。もしも真実、克哉が本多を信じることができたなら、克哉が本多によって変われたのなら。
克哉自身を明け渡しても、揺るがない自信が得られたならきっと・・・
「・・・よし、ヤろう。お前の気が変わらないうちに。」
今はまだ怖い。ごくりと喉を鳴らした本多が、獣のように欲情しているのがわかる。拒めないかもしれない。本多の理性が吹き飛べば、何をしでかすかは分からない。こんなことは卑怯だとわかっていて、克哉は本多を誘惑するのだ。破滅へと向かいたがっている臆病な心ごと、本多に壊されたいと願って。
「ああ・・・いいぜ」
唇を舐めながら、克哉も負けじと獰猛な笑みで応える。
俺たちはきっと、同じようなことを繰り返すだろう。けど、それは全く同じじゃないんだ。繰り返すごとに、俺もお前も変わっていく。恐ろしくないわけがない。けれど、それでもいいと思える位に、克哉は本多のことを想っていることは言わなくても分かって欲しい、そんな可愛らしい自分を認めつつ、馬鹿で鈍感な無神経・・・そんな鬼畜な自分の彼氏を、克哉はやさしくバスルームへと導いた。
*おわり*

みどかつSS「素直におなり」


20100628
「克哉・・・君はどうしていつまでたっても言いたいことを飲みこむんだ?」
苛立ちを露わにした御堂を、克哉は少し驚いたように見つめ、いつものように曖昧にほほ笑んだ。
佐伯克也の従順な外面は、見せ掛けでしかなく、本性は頑固で融通がきかない完璧主義者という厄介な人間なのだと、今となっては御堂も薄々気づいてはいた。
ただし、恋は盲目との言葉通り、克哉に対する御堂の視線には大いにフィルターが掛っているということだった。
声を荒げてしつこく食い下がる御堂を宥めていた克哉だったが、あまりに一方的な糾弾に、とうとう堪忍袋の緒を切らしたようだった。
「御堂さん・・・オレが素直になる魔法を教えてあげましょうか。でも、後悔しないでくださいね。」
克哉が時折見せる暗い微笑みは底が知れないと、御堂は背筋を震わせた。確実に、彼を怒らせてしまったのだと後悔しても、もう遅いのだった。
けれど、何を聞いても後悔しないというのは御堂自身の疑いようもない真実であったから、躊躇わなかった。
克哉はあまりに盲目的になって“病んだ”御堂を見遣り、溜息をつくと、その方法を語り聞かせていった。

「あ、この人ホモなんだってびっくりしましたけど、オレ、なんかちょっと納得しちゃいました〜♪」
あまりにも露骨な言葉をぺらぺらと喋りながら、克哉はうっとりと御堂を眺め、綺麗すぎると思っていたんですと小声で告げた。
御堂は青ざめた顔で、これ以上ない程眉間の皺を深く刻んでいた。これは、誰だ。
克哉はふわふわと宙に浮いた視線を巡らせて、御堂に到達するなり爆笑しはじめた。文字通り、腹を抱えて、呼吸困難になる程激しく。
ますます顔を顰める御堂をおかしそうに指さして、克哉は笑い続ける。
「だって、接待を断った途端に御堂さんったら・・・ぷぷっ・・・拗ねちゃって、会ってくれなくなったでしょう?」
何を聞き出そうとしたのか、御堂はうっかり忘れそうになっていたと気付き、そんなことは最早意味がないのだと溜息を吐いた。
こんなものが、克哉という人間の底だとしたら、御堂の見る目というのは全くあてにならない。
何故こんな男に接待を要求したのだろう、御堂自身もその理由がわからなくなりそうだった。
身も蓋もない告白に、御堂が青くなったり赤くなったりを繰り返し、さすがにうんざりしてきた頃合いだっただろうか。
「・・・本当は迷っていたんです。眼鏡を掛けてあなたと交渉することもできた。けど、そんなことは出来ないと思ったんです。」
ふと、笑いを止めて呟いた克哉の言葉に、御堂はかつて受けた“相談”を思い出し、はっと息を飲んだ。
克哉は言葉を続け、御堂が思いつきもしなかった可能性について言及した。
簡単に人の心を踏み躙ることができる、ゲームのように、パズルを組むように楽しんで、そんなことができる人間なのだと克哉は言った。
御堂を罠に掛けて、逆に凌辱し、脅迫し、言うことを聞かなければ監禁すらしたのではないかと、冷たい笑みを浮かべて語る克哉は、御堂の知る人間ではないように見えた。
「だって御堂さん。眼鏡を掛けて、あなたを陥れても。それはオレの負けじゃないですか。」
朗らかに、まるで歌うように克哉は囁く。両腕をいっぱいに広げて、くるくる回りながら、無邪気に笑っている。
御堂は知っていた―そうだ、生意気で、頑固で、何を引き換えにしても膝を折らせたい―そういう若者だったと御堂は思い出す。
けれど、何故リスクを冒してまで、御堂がそこまでする動機は一体何だったのだろうと抱いていた疑問の答えは、眼の前の男が握っていた。
「あなたに勝ちたい・・・初めてあなたに会ったとき、オレは強く願ったんです。絶対に負けたくなかった。」
ぎらぎらと燃えるような眼差しは、無謀にも御堂に舌戦を仕掛けてきた眼鏡の男に似ていなくもなかったが、それよりもずっと強い芯を感じさせた。
こんな眼を見るたびに思う。克哉は自分よりもずっと野心家で、きっと実現できないような夢を抱く程無謀でなく、それを成し遂げることができるのだろうと。
不意に克哉は御堂の手を取り、強く握りしめた。遠くを見るようだった御堂の視線を、自分に釘付けにすると、満足げにほほ笑みながら、熱い告白をするのだった。
「だって、あなた程カッコイイ人はいませんよ。それまでも、これからも。」
ここに至ってようやく御堂は後悔していた。もしかしたら、克哉が御堂を追い越した時にこんな告白を聞けたのではないかと。
隠しようもない程に顔を赤くする御堂を、克哉はそっと抱きしめ、無言でくちづけた。

「御堂さん、昨夜はあの、オレ・・・その、生意気なことを言ってすみませんでした。」
深々と頭を下げる“部下”の姿を、御堂は幻でも見たように硬直し、一言も発せずに眺めた。
克哉から聞かされた素直になる魔法が一体どのような呪いであったのか、翌朝目覚めた御堂は既に記憶していなかった。
ただ、あまりにも克哉がうろたえているので、御堂は彼を試してみようと意地悪さを発揮することにした。
「克哉、君が私のことをあんな風に思っていたなんて・・・」
非難するように語調を強めて、いつもの部長の貌を作り、高圧的に振る舞う御堂を、今度は克哉が不思議そうに眺めていた。
その視線に気付き、今度は御堂が内心慌てた。私はなにかおかしなことを言ったのだろうか、あるいは態度か、寝ぐせでもついているのだろうか。
狼狽する御堂を無言で眺めていた克哉は、ふっと何時ものように柔らかく微笑むと、人差し指を立てて御堂の頬を突き、首を傾げた。
「そんなの、御堂さんがわかり易すぎるだけですよ。」
悪戯っ子のような仕草に、御堂は冷や汗を垂らした。昨夜、あれから私たちは何をしたか―という疑念を口に出せず、唾ごと飲みこんで、御堂は平静を装うことにした。
*おわり* 

N克哉と澤村SS「いじめ、ダメ、絶対。」


20100629
桜が舞い散る公園で、克哉は澤村を待っていた。というよりは、一方的に呼び出されたのだ。恐喝、恫喝の類という訳だった。
その割には克哉の表情はぼんやりとして、桜の散る様子を眺めては、うっとりとため息をつく・・・まるでデートの待ち合わせでもしているようだった。
それを影から伺い、澤村は動悸が激しくなるのを必死で抑え込もうと無駄な努力を続けていた。
あいつ・・・何をニヤニヤと笑っているんだよ。生存本能というか、いじめられっ子の勘が告げていた。復讐など諦めてここから逃げ出せと。
いやだ、いやだいやだ・・・僕はあれから必死に努力してきたじゃないか。負けるはずがないんだ。僕は今度こそ克哉くんを負かせてみせる。
あ、もう時間だし。え、ちょっと克哉くんもう行っちゃう気?君はいま僕に脅迫されているんだけど。それはないんじゃないかな?待って、だめだ、僕はまだ
「なんだ、いたんなら声かけろよな。」
うっかり飛び出してしまったのを見られた。気まずいんだけど、向こうは何とも思っていないらしい。助かった・・・のかな?
「や、やあ克哉くんひさしぶり〜♪僕のこと覚えててくれたんだ?」
とりあえず明るく挨拶をしてみたら、克哉くんはじっと僕をみつめてきた。なんだろう。呼び出したのは僕なのに、なんだかすごく怖い。
「その眼鏡、似合ってないから外したら?」
ぴくりとこめかみに血管が浮きだしたような気がする。なにそれ、挑発してるつもりなのかな。克哉くんのくせに、生意気なんだよね。僕がどんなつもりで君を呼び出したのかわかってないんじゃないかな。思い知らせてあげなきゃだめだよね。
「僕のいうこと、聞いてくれるよね?だって僕たち親友じゃないか。」
ちらり、と極秘に入手した克哉くんのプライベートフォトを見せてみた。さあ、跪いて僕に服従すればいいよ・・・得意げに作った笑顔は、華麗にスルーされていた。ちょ、克哉くん?なんで憐みの籠った目で僕を見るのかな。自分の立場がわかってないんじゃないの。
「あ、あのね克哉くん僕は・・・」
「黙って。」
人差し指を口に当てて、克哉くんは突然僕の背後に身を寄せてきた。え、なんなのその慣れた身のこなし。克哉くんの口が僕の耳に寄せられる。近い、近いんだけど克哉くん。っていうか、眼鏡はずさないでよ、伊達だけど。
「監視されてる、下手なことは言わない方がいい。話をあわせてろ。」
さっきまでの明朗なトーンから、急激に低音ボイスになった。本当に克哉くんの声なのこれ?しかもなんなの、中二病展開きちゃった?本気なの克哉くん、目で問いかけると、きつい眼差しで睨まれてゾクゾクした。
「なんだよ紀次〜ひっさしぶりだなー。急に連絡してくるからビックリしちゃったじゃないか〜このやろ〜」
「いたたた、克哉くん痛いよ・・・ご、ごめんごめんなあっ、あっ、アッー!」
芝居がかった調子で、克哉くんは僕の首を絞めてきた。チョークスリーパー!?やめて、僕はプロレスラーじゃない!体育5の克哉くんと違って僕は文化系なんだから、そんなノリわからないよ。死んじゃうから。僕死んじゃっても知らないからね。
涙目で訴えると、ようやく力を緩めてくれた。これって本当に演技なのかな、ちょっと・・・いや、かなり怪しいと思うんだけど。
少し余計なことを考えた隙に、克哉くんの手が全身を撫でまわしていた。なに、これ。きみがアブノーマルだっていうのは知ってたけど、僕はノーマルだから。やめて、あっ、でもちょっと気持ちいいかも。
「なんだよこれ〜。紀次ってカノジョできたんだ、ちょっと趣味わるいんじゃない。」
混乱する僕を尻目に、克哉くんはいつのまにか取り上げた僕の所持品を検分していた。ってその写真は君のカレシその1じゃないか、僕はそんな筋肉達磨なんて趣味じゃない・・・克哉くん普通に酷いな、あいかわらず。
「―オレにしとけよ」
「ひぇ!?」
克哉くん、あの、監視されてるのにこの言動はまずいんじゃ・・・って僕が巻き込まれるようなことを言わないでくれるかな。そういえば誰が監視してるんだろう。また克哉くんの顔が近い。変な気分になるからやめてほしい。蛇に睨まれた蛙みたいな。
「お前はオレのこと、ずっと嫌いだったって言ってたけどさ。」
克哉くんが僕のことを覚えていてくれた。ここに呼び出してからなんだかちっともそのことに触れられなかったから、ちょっと嬉しくて涙ぐみそうになったじゃないか。やっぱり克哉くんは酷い。
「克哉くん・・・あの時僕は・・・」
あれ、ちょっと待って。僕は何を謝ろうとしてるんだろう?違うよね。僕は克哉くんを今度こそ打ちのめしてやろうって思ってたのに。じっと目を見つめられると僕はなにもできなくて、克哉くんの後をついて回っていた頃に戻ってしまうみたいだ。
「オレは今でもずっと紀次のことが好きだよ。」
なんだろう。やばい、なんか展開がおかしいよ。僕は克哉くんのことが大嫌いだったはずじゃないか。そりゃ、克哉くんはなんでもできて、かっこよくて、僕の憧れだったけど。そんな目をして好きだなんて言われたら、僕はきみのことを憎めなくなるじゃないか。あれ、何を泣いてるのかな僕は。おかしいよ、絶対におかしいよね。言っちゃだめだ、これを言ったら僕はおしまい・・・
「ごめんな、お前が苦しんでるのに気付いてやれなくて。」
今僕を抱きしめているのは、僕がいじめに加担する前の克哉くんみたいに、誰にでも分け隔てなく優しくて、誰からも好かれる、頭が切れて、ちょっぴり我が侭でかっこいい、僕の憧れそのものの克哉くんだった。敵わないな。
「僕のほうこそ、ごめんね克哉くん。僕は・・・僕は・・・」
とうとう僕は言ってしまった。号泣しながら。みっともないよ。だってここは公園だよ?30前の男が、なんで男に抱き締められて泣いてるんだよ。僕が大っきらいな青春そのものじゃないか。ちくしょう。なんで涙が止まらないんだよ。克哉くんやめてよ、頭なんて撫でないでよ、恥ずかしいから。っていうか監視とかどうなってるのこれ。
「オレは気にしてないよ。それより、これからふたりで遊びにいかないか?」
「えっ、どこへ・・・」
清清しい笑顔で僕をひっぱっていこうとする克哉くんに、なんだかいやな予感がした。ひきつった笑顔で問いかけた僕に、克哉君はやっぱり近すぎるくらいに顔を近づけてきて、甘く魅力的な低音でささやいた。
「二人っきりになれるならトイレでもどこでもいいさ。二度とオレに逆らおうなんて思わななくなるように、遊んでやるよ、紀次。」
それから克哉君に僕がされたことは絶対に誰にも言えない。その後僕が“監視”という名の克哉君のカレシたちにボコボコにされたことは言っておこうかな。っていうかなんで克哉君のカレシが何人もいるのかわからないんだけど。えっと、僕はちがうよ。ノーマルだから。
・・・でも、克哉君は遊びだっていってたけど、絶対僕のこといじめて楽しんでると思うんだけどな。昔はいやだったけど、克哉くんになら、いじめられるのも悪くない、かも。だって僕をいじめる克哉くんって、めちゃくちゃカッコイイんだもんね。
 

メガミドRで「澤村紀次の災難」


20100630
・・・どうしよう。僕は今、物凄く焦ってる。克哉くんの公私共にパートナーである御堂って人をうっかり誘拐してしまったから。
あ、公私ってのは克哉くんが社長をやってる会社の専務さんであり、克哉くんの恋人らしいから。・・・やっぱり克哉くんって変な奴だよな。そんでもって、相変わらず面食いなんだな。
うわぁ。そんなことはどうでもいいんだよ!目下の問題は、このピンチをチャンスに変えることができるかどうかってことだ。やるんだよ、僕はやってみせる。
「はぁ・・・はぁ・・・克哉・・・っ」
あのー。御堂さん、僕まだなにもしてないんですけど、なんで涙ぐんでるんですか。あっそうか、もしかしてあなた、克哉くんのネk
「私を・・・どうするつもりだ、この変態っ・・・ぐすっ」
えーと。残念ながら?僕はいたってノーマルなんで、そんな期待をされてもBL的な展開にはならないと思われるんですがー。聞いてます?っていうかですね、リサーチかけたところ、あなたの性遍歴ってどう考えても完全に変態趣味っていうか・・・
「―君の目的は克哉なんだろう?」
都合が悪いと態度を変えるんだ。克哉くんはいったいこの人の何がよくて付き合ってるんだろう。なんだか物凄く疲れるんだけど。
「私の克哉は渡さないからな!」
いや、そういう意味じゃないんだけど。僕の話を全然きいてないよこの人。っていうか克哉くんを自分のものみたいに言わないでくれるかな、この変態オヤジ。克哉くんは誰のものにもなったりしないんだから。
「・・・いいだろう。君がそのつもりなら、私の体など好きにしたまえ。その代わり、克哉には手をだすな。」
なんなの、この人。だいたい僕は周りから徐々に攻め落としていくのが趣味だってのに、正面切って僕をホテルなんかに呼び出しておきながら、過労かなにかしらないけどブッ倒れるし。しかたないから介抱してやってたっていうのに、暴れられると困ると思ってかる〜く親指だけ拘束してたのを誘拐だの監禁だの脅迫だのって騒ぎたてて。自分の立場がわかってないんじゃないのかな。
「とりあえず、克哉くんに電話するから、おとなしくしててくださいね」
「あぁぁ・・・克哉がこのことを知ったら、どんなに私の身を案じてくれるか、そんなことになったら私はどんな顔をしてあいつに会えばいいんだっ」
・・・なんだかとんでもないことを口走りそうだから、猿轡をすることにしよう。たぶんこの直感は正しい。ちょっと、暴れないでくださいよね。あ、ちょっと、なんでそんなところに顔をおしつけてくるんですか、だ、だめっ!
「御堂っ!いま何処にいるんだ!!」
あ、克哉くんが掛けてきたからうっかり通話ボタンを押しちゃった。僕は克哉くんを相手にするとすっかり昔みたいに言うことをききたくなっちゃう癖が直ってないみたいだ。しっかりしなきゃ。
「やあ♪克哉くん☆」
「澤村!?」
うわぁ。電話越しなのに、僕の声だってわかるんだね。なんだかすごく嬉しいよ。この間公園で再開したときに知らん顔されたことは水に流してあげてもいいかなって気がしてきたよ。僕って寛大。
「くくっ・・・驚いた?」
「何故お前が御堂の携帯に出るんだ、御堂はどこにいる」
怒ってるよ。克哉くんのこの声、絶対怒ってる。ゾクゾクするよ。ってあれ、御堂さん、何を嬉しそうに僕の股間に頭すりつけてるんですか。ま、まさかこの人・・・克哉くんの声で抜いてr
「あぁっ・・・!」
「御堂!?」
ちがうよ、これは僕の声。君の大切な御堂さんは、なんだかよくわからないけど僕の股間をいじりまわしてるんだけど。克哉くんがみどーみどーと叫ぶたびに、なんだかすっごく感じてるみたいなんだよね。もしかしなくても、この人すっごく変態だ。やばいやばいと思いつつ、克哉くんとごく普通に仕事の話をした。やればできるじゃないか、僕。
「はぁ・・・そろそろ教えてあげるよ。僕が君のパートナーの携帯で話してる理由をね。」
ごくりと克哉くんが喉を鳴らす音が聞こえてきた。いや、そんな期待をされても、あんまり話すことはもうないんだけど。この困った人をなんとか連れて帰って欲しいところなんだけど、克哉くんは僕を信じてくれるかな。
「ねえ、御堂さん。あんたが今、どんな格好をしているか克哉くんに教えてやってください・・よっ!」
まったく僕の大事なところを玩具にしないでくれるかな。冷や汗が出るじゃないか。あっ、またそんなところに頭を押しつけて・・・
『・・・・・んっ・・・』
「御堂っ!」
あああああああああああああ、しまった。御堂さんに猿轡をしたまましゃべらせたらどんなことを誤解されるかなんて、全然考えてなかったよ僕、どうしよう。だって僕はホモじゃないし。そんな気持ちわからないってば。っていうか今御堂さんイったでしょ?なんか臭うよ!?
「きさまぁ・・・」
明らかに妙な誤解をしてしまった克哉くんの凄い剣幕に、実際に会いに来てもらうしかないと思った僕は、問われるままにホテルの名前と部屋番号を教えていた。なんか泣きたい気分なんだけど。
「御堂さん、あんたね・・・なんで克哉くんを煽るようなことをするんだよっ!」
普段は温厚な僕もさすがにキレた。いくらなんでも、僕をBLゲーでいうところの噛ませ犬みたいな役に仕立て上げるなんて、許せないよ。さあ、どんな言い訳をするか、聞かせてもらおうじゃないか。
「ククク・・・これで佐伯が君を好きになることはないな。なぜなら、私を愛しているから!」
ああ。この人はあれだ、お勉強もお仕事もできるけど馬鹿な人だったんだ。なんなのそれ、のろけてるの?ホモがのろけたって、僕はどんな反応をしたらいいのかわからないんだけどな。頭が痛くなってきた。
「ほら、私を襲いたければ襲いたまえ・・・と言いたいが、きみの可愛いソコは強情だな。」
ちょ、どこ見てるの?可愛くて悪かったね。っていうか頭で人の大事なところの大きさを確認しないでくれるかな。どんだけ変態なんだよ克哉くんのパートナーは。
「ふん。克哉くんがあんたを愛してるだって?あんたみたいな変態、すぐに愛想つかされるんじゃないの。」
どうだ、言い返してやったぞ。っていうかこの人僕たちより7つも上のくせに大人げないよな。だいたい僕は克哉くんの親友だったんだから、あんたなんかよりつきあい長いんだぞ。小学校時代とか絶対知らないだろうな。あんなに可愛くてカッコよかった克哉くんを知らないくせに。
「・・・たしかに、彼は独占欲の塊だからな。もし私が穢されてしまったと思ったら、何をするか・・・」
ちょっと。穢されるってなんだよ。御堂さんって目茶苦茶ヤリマンていうか、変態プレイとか、とっかえひっかえというか、目茶苦茶遊んでたくせに今更なに可愛らしいことを言ってるんだよ。克哉くん騙されてるんじゃないの。
「ふうん、だったら大切な玩具を取られた仕返しでもする、のかな?」
うわ。なんか言ってみたら克哉くんならそういうことするかもしれないって思えてきたんだけど。今度は僕、本気でいじめられちゃうかもしれないのかな。怖いんだけど。っていうか完全にとばっちりなんだけど。
「まさか君を手篭めにするなんて・・・考えたくはないが・・・そんな・・・」
ちょっとやめてよ。そんなことを勝手に想像しないでくれるかな。僕のお尻が危険なのかな。やめてよ。僕はノーマルだから女の子相手にだってそんな変態プレイしたことないのに。なんでそんなに青ざめているのかな。冗談じゃない、僕はBLとかそういう・・・
<ドン、ドン、ドン>
荒々しいノック音に、僕は御堂と目を合わせて、同時に唾を飲み込んだ。
*おわり* 

御堂×眼鏡→片桐「天国か地獄」


20100701
あんた、狂ってるんじゃないのか、こんなことをして・・・後悔しないでくださいよ。俺ですか?
俺の感情なんて、興味ありませんよね。だって俺はあんたの―
・・・!!
か、片桐さん・・・はい、今MGNから掛けてます。
わかってますよ・・・ええ、増産の件は御堂部長の了承をもらいました。
あっ・・・え、いえ何でも。ちょっと、蠅がうるさくて、ね。
片桐さんの方は何もありませんか?ならこれで―ちょっと、いい加減に・・・言えるわけがないでしょうそんなこと。
すみ、ま、せん・・・片桐課長。なんでも・・・ない・・・んですよ。
え、言ってもいいって・・・なんでもいいんですか?
ふふ。何でも、だなんて軽々しく言っちゃいけませんよ。
いえ、そうですか。じゃあお言葉に・・・甘えて。
俺はあなたに嘘をついて・・・いたんです。ずっと。
あはは。気付いてましたか。流石は片桐課長だな・・・と思いまし、て。
実は御堂部長の接待でへまを・・・やらかしまし、て、ね。
目標値は元に戻してもらえるように、ええ、そっちは俺がなんとか・・・したんです、が。
もとはと言えば・・・俺が蒔いた・・・種、ですから。
そんな、大したことじゃない、ですよ。只の嫌がらせ・・・ですから。
はぁ、あ、すみません。
こちらのことは心配して・・・いただかなくて・・・いいんです。
御堂?・・・まあ、いるといえばいるんですが・・・別件でお忙しい、様子、ですよっ。はぁ・・・あっ・・・
まだ、大丈夫ですけど・・・でも流石に・・・限界、かも、しれませんねっ・・・。
愚痴らせてください・・・ふふ、ありがとうございます。もし俺のせいで・・・業務に支障、が、でたら・・・後で、お手伝い、しますよ。
やめてください・・・やさしいのは、あなたです、片桐さん。
俺は・・・いや、8課の皆は・・・今何のために・・・頑張っているんだと・・・思ってるんです、か?
ええ、そうですね。俺は頑張りました・・・褒めてくださる、んですか、はは、うれしいな・・・。
んっ・・・はぁ・・・・あ、えーと。
すみません、片桐さんに、お礼が言いたくて・・・ええ、もう目標値は達成・・・できるでしょう・・・けど。
そうじゃない・・・そうじゃ、ないんです。俺はっ・・・あ・・・。
もう、我慢できない・・・辛いんです・・・ねえ、片桐さん?
あなたに甘えてしまっても・・・いい、ですか?
本当に?
はぁ・・・はぁ・・・ええ、限界、かもしれませんっ・・・あ・・・。
切らないで・・・もう少しだけ・・・お願いします・・・
ありがとう・・・ございまし・・・た・・・
いえ、そういう、意味じゃない・・・んですけど・・・ねっ・・・
あなたにどうしても・・・伝えたくって・・・俺は・・・
はぁ・・・はは・・・・ははは・・・なんてこった・・・
すみません、俺は、ずっとあなたに・・・助けられて・・・きたので・・・
営業なんて向いてない・・・って・・・わかってたんです・・・けど、いざ8課・・・に配属、されると・・・
すみま、せん・・・まあ、それはもう・・・いいです、よね・・・ふふ・・・
俺は・・・誰の気持ちも・・・わからないって・・・昔、親友だった・・そう、信じてた・・・奴から・・・言われて・・・
意地になって・・・いた・・・のかも・・・ふふ・・・おかしいです、よね。
あっ・・・あ・・・くっ・・・いえ。まだ・・・平気、ですよ。
励ましてくれた・・・じゃ、ないですか・・・上に何を・・・言われても・・・みんなを、守って・・・きたのは、あなたです・・・っ
どうしたんですか・・・泣いてる・・・んですか?どうして・・・
変に思われますよ・・・そうです・・・落ち着いて・・・だいじょうぶですよ・・・ティッシュ取って、そう、くしゃみがでた・・・ふりでも・・・はは・・・無理そうですね。
あなたらしい・・・ええ、まったくあなたは・・・なんて人なんでしょうね・・・俺の・・・
あなたは俺のなりたかった・・・人柄・・・そのものだった・・・
ええ・・・ははっ・・・そうですね、ずっと・・・反発して・・・素直になれなくて・・・けど・・・
あっ・・・俺はっ・・・あなたの、こと・・・好き、ですよ・・・
だから・・・ちょっとだけ・・・迷惑かけても・・・いいですか?
8課のこと・・・頼みます・・・俺は・・・ちょっと、だけ・・・休ませて・・・もらっても・・・すみません・・・
うわ・・・片桐さんに、そんな、こと・・・言われたら・・・俺・・・泣いちゃい・・・ますよ?
はは・・・はぁ・・・はぁ・・・ああ・・・俺は・・・幸せ者・・・だなあ・・・って・・・
片桐さん・・・すみません・・・ごめんなさい・・・もう・・・ダメ・・・はぁ・・・あ、あぁ・・・・ああっ!
・・・はぁ・・・何ですか、その目は。
クク、まさかあんた、嫉いてるんですか。冗談でしょう。
あの人とあんたを一緒にしないでください・・・穢れる。
そんなんじゃ・・・そんなんじゃない・・・俺達とは違うんだ・・・
そうですね、あの人は[天使みたいないい人]だとか[まるで白痴]だとか、まあ、形容するなら色々あるんでしょうけど。
俺はあの人がいたから、今までのオレを辞めたんだ。
だってどうやっても敵わないじゃないか、あの人には・・・絶対に敵わない。
―目を閉じると、あの人の柔らかな微笑みが瞼の裏で眩しく輝いていた。
不意に胸が締め付けられる思いがして、俯いた瞬間、執務室の扉が開く気配がした。
その扉の先は天国か地獄か、或いはもっと別の何処かへ繋がっているだろうか。それを知るために、俺はゆっくりと目を開けた―
*おわり* 

眼鏡克哉ハーレム?「共演の佳日」


20100702
〜♪
誰かのゴキゲンな鼻歌で、御堂は目を覚ました。築十数年は経過していると思われる一般的な―和室?・・・どこなんだここはと自問するものの、昨夜何をしてこうなったのかさえ全く記憶にない。
不安からキョロキョロと何かを探そうとしている自分が、おかしい。何を・・・誰を探そうとしているというのだろう。大体このような不可解な現象には、大抵あの男が関与しているに違いないという確信めいたひらめきが起こり、記憶の枷が緩んでいくのを感じていた。
「・・・佐伯は、いないのか?」
口に出してみれば、その響きさえも御堂の一部であるかのように自然であり、何故いままで抜け落ちていたのか不思議でならない。
あの男が自分の傍にいないという不安が、見知らぬ風景よりも、御堂のなかでは重要なのだということが情けなくもあり、また少し誇らしいと思えるようになったのはそんなに昔という訳ではない。
ふっと自嘲気味に笑った御堂は、見覚えのある巨躯がごろりと寝返るのを見て、眉間の皺を深くした。
「克哉ぁ〜・・・もう、勘弁してくれよ・・・そんなの無理、入んねぇって!」
一体なんの夢を見ているのだ、この男は。“御堂の”佐伯の数少ない―唯一御堂の知るところの―友人である本多憲二がおぞましい寝言を呟き、御堂は嫌な想像をした。
初めて佐伯克哉に出会った頃、本多は常に佐伯の傍で彼を守るように御堂を威嚇していたと思いだす。だからという訳ではないが、御堂はこの男のことが未だに好きになれないでいた。
「ちょっとは優しくしろよ・・・俺達恋人同士じゃねぇのか・・・」
あまりにも聞き捨てならない寝言に、咄嗟に御堂は蹴りを入れていた。もろにみぞおちに入った踵に悶絶し、本多は目を覚まし、涙目で御堂を見上げた。
「目は覚めたか?本多くん。きみの恋人じゃなくて悪いが、そろそろ起きた方がいいんじゃないのか。」
げほげほと咳込み、脇腹をさすりながら何事か確認していた本多は、不思議そうに部屋を見渡した。
「えっ御堂・・・さん?克哉はどこに・・・って恋人ぉ!?」
青くなったり赤くなったりする本多が、ものすごく気持ち悪い。もしかしなくてもこの男、私の佐伯に懸想しているのではあるまいか。
もう一つの可能性については、あまり信じたくないが・・・佐伯の貞操観念は未だに信用できるとは言い難い。御堂は湧き上がる疑念を振り払うように、完璧な笑顔(営業スマイル)を作り、それとなく本多を尋問することにした。
「君はいま寝言でいっていたぞ。佐伯君はきみの恋人なんだろう?」
からかうような口調だったにも関わらず、問われた本多の方は、妙に真面目な顔になり、数秒逡巡したのちに口を開いた。
「・・・ええ、驚かれるかもしれませんが、実は俺達そういう関係なんです。」
参ったな、と照れて頭を掻く本多は、御堂が違う意味で硬直しているとはまったく気がつかないでのろけ話を始めるのだった。克哉はいつも意地悪なことばかりするが、それらはすべて照れ隠しであって本当の彼は優しい面もあるのだ、とか何とか。
聞かれてもいないのに、高校時代にまで遡って慣れ染めを語る嬉しそうな本多を眺めながら、御堂は心の内で佐伯と別れる算段をしていたが、その結論を導き出す最大の原因は彼自身のプライドがエベレストよりも高いせいだった。
つまり、本多と私を同列にするなど許せない―そういう理由で、御堂は自身と佐伯との関係には口を閉ざし、胸のむかつきを堪えながら本多の話を黙って聞いてやっていた。
「そこで克哉の奴が―」
スパンっと乾いた音を立てて、勢いよく襖を開けて現れたのは見知らぬ少年だった。きょろきょろと部屋の中を見渡す横顔は美しく、一見すると少女に見間違えそうな程だったが、御堂は自身の性癖からその辺りの判断能力が高い為に、瞬時に少年の年齢まで判別していた。あえてその年齢には触れないが。
「君は、この家の子か?」
警戒心を露わに、毛を逆立てた猫のように威嚇しながら、少年は首に嵌った赤い首輪を握りしめ、叫んでいた。
「克哉さんは僕のだからね!」
今度こそ、御堂の思考回路はショートしていた。
目を白黒させながら、本多は少年を見つめ、女の子じゃねえのかよと的外れなことを呟いていた。硬直する場に、先程きこえていた鼻歌が流れてきて、三人は一気に脱力した。
「おやおや、みなさん目を覚まされたんですね〜。朝ごはんできてますから、手を洗ってきてくださいね♪」
今度はあなたですか、片桐課長。御堂は心の中で呻いた。
聞けば、ここは片桐の家であるらしい。自称佐伯克哉の恋人たち御一行様は手洗い場から食卓に案内されると、一斉に腹を鳴らした。
いかにも家庭的なもてなしに、温かな料理に、彼らは皆飢えていたのかもしれなかった。
「課長、お言葉に甘えていただきまーっす!」
「僕もいいの?・・・いただき・・・ます」
「すみません、御馳走になります。」
「はい。おかわりもありますから、いっぱい食べてくださいね♪」
もっと殺伐とした雰囲気になるかと思っていたが、あまりにも料理が心に染みるために、佐伯克哉を巡る争いは食事の後に持ち越されることが暗黙のうちに了解されていた。
御堂は心の隅で、まさか片桐に限ってそのような馬鹿げた争いの輪に入るなどということはないと考え、妙な想像をした自分を恥じた。
ふと見遣れば、本多が差しだした茶碗にごはんを継ぎ足してやっている。まるで母親と息子のように見えて、先程までの諍いを忘れ、御堂はこの食事を楽しむことにした。
「片桐さんは召し上がらないのですか?私たちに遠慮せず―」
「僕は、先にいただきましたから。」
御堂は片桐が先程から三人を眺めるだけで、自分は箸をつけていないことが気にかかり声を掛けたのだが、いつものように有無を言わせぬやわらかさで微笑み返されれば、それ以上なにもいうことはできなかった。
「でも、知りませんでした。佐伯君はものすごく人気者だったんですね〜♪」
思わぬところから話を蒸し返されて、噎せ返った三人の様子を面白そうに眺めて、片桐はおっとりと言葉を紡ぐ。
「うふふ。当然ですよね、佐伯君はとっても格好よくて優しくて素敵な人ですからね。」
果たしてこれは邪推に過ぎないのだろうか。湧き上がる嫌な予感に、御堂は指先を震わせて箸を鳴らした。どうしました、御堂さんと呑気な声を出す本多だけがこの状況に気付いていないのだった。
一同に会した食卓の4人全員が“自称・佐伯克哉の恋人”であろうことに。そして、この奇妙な状況を果てしなくややこしくしている渦中の人物である彼がいないことが、御堂の胸を騒がせるのだった。
「私の佐伯がどこにいるか、御存じなのではありませんか?」
意を決して、御堂は片桐に問いかけた。ここに至ってようやく、御堂は自分の思いを吐露することにしたのだが、それは先程までの下らない争いが、思いもかけず深刻であると気付いた為であった。
本多や見知らぬ少年が“私の”という箇所に反応して何事か喚いているが、彼らだけならともかく、片桐までが相手になるならば、この勝負は分が悪すぎる。プライドを捨てても同じ土俵に上がらなければ、勝負にすらならないのだから。
「―いいえ?僕は“御堂部長の佐伯君”なんて、存じません。ですが―」
意思というものを微塵も感じさせない笑顔だと御堂は思っていたが、それはとんでもない誤った思い込みだと、ようやく気付いても遅いのだ。
この場所が片桐の家であることが、全てを物語っているのではないだろうか。片桐の家に集まったのではなく、集められたと考えれば・・・
にっこりと笑んで、片桐は指に嵌った金の輪を愛おしそうに撫でた。いかにもといった結婚指輪を認め、御堂を含めた場の3人が絶句する。まさか、それを贈ったのは・・・
「まあ、喧嘩はよしましょう。佐伯君は、話せばわかってくれると思いますよ?」
まだ佐伯君が“帰ってくる”までたっぷり時間はありますから、と片桐が言うと、胃の中がずっしりと重く感じられ、この重みは“恋人”以上のものかもしれないと御堂は打ちのめさた。
〜♪
片桐は食後のお茶を淹れながらそのリズムに合わせて体を揺らし、沈黙が落ちる食卓に、調子はずれな鼻歌は朗々と響くのだった。
*おわり* 

メガホン風味なほんかつR後「俺の克哉はひとりだけ」


20100703
何度も繰り返している議論は平行線を辿り、その原因も結論もわかっているのにお互いが譲らないのだから始末に負えない。
「本多のわからずや!」
涙目で睨みつけても、やはり克哉は可愛いと本多は思う。そんな胸中を素早く察知して、克哉の機嫌は最悪になるのだ。こんなやり取りも勿論いつものこと。
「機嫌直せよ。なっ、克哉ぁ・・・」
抱きつこうとする腕を全力で払いのけると、克哉は今までにない行動をとった。冷たく儚げに微笑みかけ、そっと押しつけるような口づけ、その手にはあの眼鏡を握りしめて。とんでもないことになりそうな予感がして青ざめる本多に圧し掛かりながら、克哉は可愛いことを言うのだから始末に負えない。
「オレとあいつは全然ちがうのに。オレが一番本多を好きなのに。」
言動不一致もいいところで、愛を囁きながら克哉はその眼鏡を掛けると、声のトーンを変えた。
「さぁて、お前はどうなんだろうな、本多?」

表情の作り方が違う。発声方法や抑揚も、全く違う。いや、変えているのだ。豹変した克哉に組み敷かれながら、本多は不敵に笑い返した。
よぉ、久しぶりだな眼鏡の克哉。とはいえ、こいつも克哉であることに変わりはないのだが。
「お前が認めない限り、あいつは納得しないと思うがな。」
好き勝手に本多の体をいじりまわす克哉は、鋭いまなざしで一挙手一投足を観察しているようだった。正確にいえば、本多がどこをいじられて感じる身体なのか、探り出すことに嗜虐の悦びを感じているのだが。
「う、あぁっ!」
正直に言えば、本多はこういう克哉も嫌いではない。強引さも、積極性も、甚振るような愛撫さえも、克哉の全てが愛おしいと本多は本気で思っている。もっとも、克哉には伝わっていないようだが。
「身体は正直・・・ということなのか?オマエご自慢のココはもう弾けそうになっているぞ。早いな。」
言葉で詰る、視線で犯す、本多はそんな眼鏡の克哉をサディストだと言うが、にやにや笑って答えないのがこの克哉という人間の食えないところだ。
この男は克哉なのだ、そう思えば本多は抗えない。他人が見ればまるで別人だと思うような振る舞いをしていてさえ、本多にとってはあまり違いを感じないというのは、果たして鈍感なのか、強情なのか。
「いてぇ・・・」
力いっぱい乳首を抓り上げられ、悲鳴を上げる本多に、間違いなく克哉は欲情している。本多の潤んだ目が、克哉のぎらついた瞳を覗き込む。まるで別人のように見える。けれどそれは見せかけだけのものだと本多は確信している。
「本多、動くな。」
克哉の弱いところだって、本多は知っているのだからお相子だと思うのだが、手を伸ばして脇腹を撫でても、舌打ちが返ってくるだけだった。急に不安に襲われる。本多に見せているいつもの克哉というのもまた、演技でしかなくて、感じているのも振りなんじゃないかと。それどころか―
「そ、そこは・・・」
アヌスの縁を撫でる指は、間違いなく克哉の細く長く美しい指だというのに、本多は恐怖を感じていた。無理矢理こじ開けられるのは怖い。たとえ相手が自分の愛する人だとしても、愛を信じられなければ。
「どうした、怖いのか?・・・俺が、怖いか。」
乳首に噛みついて嬲っていた顔がふっと持ち上げられると、そこに浮かんでいた表情は思いがけなく優しげで、それでもいつもの克哉とは表情が違っていたけれど。少し安堵して、本多は克哉を睨みつけ、挑発するように笑ってやった。
「誰が怖いって?やれるもんならやってみろよ、克哉。」
すうと、その美しい双眸が眇められ、口元からは笑みが消えた。克哉はぱっと身体を離すと、辺りをごそごそと探って何かを取り出した。鮮やかな身代わり、心変わり。それはいつも本多を翻弄してやまず、そして本多が知りたいと渇望しても捕まえられない本性。
「―やっぱり、お前を愉しませるのは俺の趣味じゃない。」
あまりよくないことを聞いたと、一瞬後悔に包まれ身体を委縮させた本多に、克哉は覆いかぶさると一気に本多を貫いていた―ローションの入ったボトルで。
「うぎゃああああ!」
悲鳴とも絶叫ともいえる泣き声を上げながら、本多は“丁度この大きさがお前のMAXサイズなんだがな”とかいう克哉の声を聞いたような気がしたが、あまりの激痛にそれは記憶に残らなかった。

それは夢か幻か。いっそ、その方がまだよかったかもしれない。
「うわあああああ!」
いつもの克哉が上げた(声のトーンでわかる)悲鳴で、本多は目を覚ました。体中が痛い・・・とくに、ケツの穴が重症だろうということは見なくても分かっていた。
ごめんなとか、病院行くかとかおろおろしながら語りかける克哉が物凄く憎たらしい。大丈夫かだって?見ればわかるだろうが。
「あの・・・それ、俺―眼鏡のオレに犯られた、のか?」
確かにお前の仕業だと言いたかったが、克哉の顔を見ればそういう意味ではないとわかる。わかるが、わかりたくもない。
眼鏡を掛けた克哉のことを、克哉はいつも“あれはオレじゃない”と言う。眼鏡を掛けたところで、克哉は克哉だと本多は言う。これが平行線になる議論のタネだ。
痛みに顔を顰めた本多を、克哉は泣きながら抱きしめ、可愛らしいことを言うから。だから本多はそれ以上言えなくなってしまうのだ。
「いやだ。本多はオレだけのものなのに・・・俺の気持ちはあいつなんかに負けないのに・・・誰よりもオレが一番本多を好きなのに!」
克哉はどこか狂っているのかもしれない。それが俺への愛ならいいと、本多は思う。昨夜の顛末を話して聞かせ、優しく、克哉に、たった一人しかいない“俺の克哉”に問いかけた。
「お前も、俺を・・・ヤりたいって思ってるんなら―いいぜ?」
眼鏡を掛けて現れるのが克哉の本性だというなら、まるごと受け入れたいと思うのは、どうしようもなく、本多も克哉を好きだからなのだろう。真摯な本多の問いに、克哉は目を見開いて、ごくりと喉を鳴らした。しばしの間、二人は見つめ合い、どちらともなく微笑み合った。
軽く口づけを交わしてから、克哉はゴメンと謝罪し、殊勝な表情は一瞬で消え失せ破顔一笑。
「オレ、そんな趣味ないから。」
そんな克哉の笑顔が、本多は好きなのだから、仕方がない。それを克哉がどこまで分かっているかは定かでないが。
*おわり* 

克克×メガホンな本多「かつかつテクニック」


20100704
「なあ“俺”、いいこと思いついた。」
往々にして、無意識の世界では現実と権力が逆転するもので、克哉はもう一人の自分自身の妙な発案に上手く乗せられることを苦々しく思いながら、結局は受け入れるのだろうと諦念し、目を閉じた。

本多の願いと書いて、本願。彼がする願い事といえば決まっているので「お前の願い」といえば勿論、本多が性交渉において上位になる権利を指していた。
縦しんば、克哉が本多の願いを聞いたところで、唯々諾々と従う筈もないことは、本多の頭には無いらしい。
まあ、克哉は本多のそういう“純情”な部分を結構気に入っているのだが、あまり口には出してやらない。
「か・・・克哉ぁ・・・」
切羽詰まったような可愛らしい(気色悪い)声を出して、本多は克哉の尻を撫でていた。否、撫でろと命じられてしていたのだが。
克哉はしどけなくベッドに横たわり、裸体を晒していた。背中から腰、そして尻に掛けてのカーブはどこか中性的であり、青白い程に透明感のある肌理の細かい表面は熱を孕んで本多を誘惑していた。
「ほんだ・・・いいんだよ?オレを、好きにして・・・」
ゆっくりと、克哉は背中越しに振りかえり、本多に微笑んでみせた。どこか頼りなく、儚げな、それでいて艶めいたアルカイックスマイル。
「好き・・・本多、お願い・・・きて。」
ごくりと喉を鳴らしながらも、本多の目は忙しなく克哉の豹変ぶりを確かめては不安げに揺れるばかりだった。まあ、下半身は欲望に滾っていたのだが。
「お前・・・変だぞ、そんなにしおらしくなるなんて。」
あーあ。内心克哉はため息を吐いた。駄目元で、もうひと押しすることに決めると、切なげに眉根を寄せ、瞳を潤ませながら本多の顔を覗き込んだ。
「オレにそうさせてるのはお前だろ・・・恥ずかしいんだから、はやく・・・な?」
おいおい、顔真っ赤じゃん・・・なのに本多はやっぱり本多なんだな。苦しそうに衝動を抑え込んでいる健気さに、克哉はまたも降参するしかなかった。
「馬鹿だよお前は!」
「―全くだな。」
一人は激昂し、もう一人はどこか満足そうに笑っている。いつものことだというのに、本多はお約束のように“ふたりの克哉”を見比べ、驚き叫んだ。
「か、克哉が分裂した!?」
思い切り殴られた頭を撫でながら、本多は眼前で人差し指を振り、錯覚ではないかと確認する。全く学習能力がない、という訳でもないのに、まだこの光景に慣れないらしい。
「無駄だと言っただろう?こいつの“願い”なんて口先だけで―」
「そんなことはねぇよ!」
本多が決して譲ろうとしない願い。だが、叶えられようとする度にこうやって拒否をするのだから、全く説得力が無い。本人もそれがわかっているので、バツの悪い表情で拗ねている。
「意気地なし。ちゃっちゃと突っ込めば済む話じゃないか。この役立たず。」
スパーと音を立てて、もうひとりの克哉は煙草を吸い始めた。本多はいつものように鼻に皺を寄せて顰め面を作る。
「こんなところでまで吸うなよ・・・」
心底うんざりした表情を隠しもせず、克哉は無言のままで煙を本多に吹きかけた。こちらの克哉が見せるあまりの表裏に、本多は情けない顔で赦しを乞うた。
そんな様子を横目でちらりと見遣りながら、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる克哉の方は、どこか本気で喜んでいるようにも見える。
「俺の調教の賜物だ、嬉しいだろう本多?」
きょとんと眼を見開いて、本気で理解できないと表情で訴えてくる本多のことが、煩わしくも可愛いと思うのだから、克哉は本多を心底気に入っているのだろう。
本多がその願いを口にする度に、わざと負けないような勝負を持ちかけては、叩き潰す。或いは、衝動的に押し倒して、己の無謀さを思い知らせてやる。何度も心と体に刻み込んだ敗北感、そして繰り返し教え込んだ二人の上下関係が本多を戒めているのだろうと克哉は嘯く。
「ちがう・・・俺はお前が・・・」
力なく項垂れて、それでも抗おうと首を振る哀れな本多。自然な欲求を踏み躙られて尚、希求し、残酷な克哉を恋い慕う可哀想な本多。
「“俺”が心の底からお前に抱かれたいって思わないと嫌だってんだろ、ホント馬鹿だよな。」
追い打ちを掛けるように、馬鹿と連呼しながら、容赦なく本多の心を抉るのもまた克哉であり、本音を言い当てられた本多は泣きそうな顔で唸り声を上げるしかない。冷たく刺すような蔑みの視線で、本多の反論を封じると、克哉はもうひとりの克哉に薄暗い笑みを向けた。
「“俺”が本気で嫌なら、こんなことする筈ないだろ。」
そう言葉を向けられた克哉は、思ってもいない所からの攻撃に一瞬隙を作り、瞬時に顔を上げた本多にその狼狽を見られてしまう。
「―貴様・・・!」
殺意を込めて睨みつけたつもりが、あっさりと往なされてしまい、克哉はいたたまれなくなって八つ当たりをすることに決めた。瞳をきらきらと潤ませて期待を込めた眼差しで見上げる本多が、物凄く気色悪い。煩わしい。五月蠅い。邪魔だ。思い切り縛り上げて、慣らしもせずに突っ込んで、一晩中泣かせたい。
「ふん。それなら逆も言えるだろう、なぁ本多?」
いかにも作りましたという笑顔で、克哉は本多の巨躯をやわらかくも強引に組み敷いた。状況の変化についていけない本多は、未だにあらぬ期待をしているようだが、克哉の知ったことではない。
「逆をやらせてくれって言うのは、俺に抱いて欲しいって本音の照れ隠しなんだろう?」
「ちっげーよ!!」
あーあとあくびをしながら、つまらなそうにもう一人の克哉が煙草を吸う横で、いつもの情事が始まるのだった。もっとも、興味が無さそうな素振りの裏側で何かよからぬことを企んでいるのが克哉の克哉たる所以なのだが。

「なあ“俺”、いいこと思いついた。」
往々にして、無意識の世界では現実と権力が逆転するもので、克哉はもう一人の自分自身の妙な発案に上手く乗せられることを苦々しく思いながら、結局は受け入れるのだろうと諦念し、目を閉じた。
*おわり* 

メガミドノマ「ロリータ 1(マイ・フェア・レディ〜ファーストキス〜 改題)」


20100711
“お嬢様”は目の前の冴えないサラリーマンにいたくご執心だ。黙っていれば眉目秀麗、話をすれば頭の回転が良いこともわかる。
だが、彼の醸し出す茫洋とした雰囲気というのは彼の内面と全く合致しておらず、周囲の人間にはうだつの上がらない男だと思われていることだろう。
“お嬢様”は彼―サエキカツヤ―が意識してそう振る舞っているのではないかと直に問うたこともあるが、きっぱりと否定されてしまっていた。
オレのことを買いかぶりすぎですよ―と柔らかに微笑まれれば、取り付く島もない。ふん、とつまらなそうに溜息をつく私を時々カツヤは切なげに見つめる。
安堵したように、或いは残念そうに浮かべる微笑は、儚げで、今にもカツヤが消えてしまうのではないかと恐ろしくなる。
だからそんな時はカツヤの後ろからそっと近づいて抱きついてやるのだ。慌てるカツヤの様子が可笑しくて、わざと身体を擦りつけてしまう。
「やめてください・・・あなたにそんなことをされたら・・・オレ、困ります。」
眉根を寄せて情けなさげに微笑むその表情は多分の恥じらいを含んでいて、私の眼には色っぽく艶めいて見え、胸が締め付けられるのも含めてこの遊戯はお気に入りだ。
“お嬢様”の悪戯に辛抱強く付き合ってくれるカツヤは、私の格好の玩具だった。好んで籠の鳥になっている私に与えられたささやかな贈り物、けれど他にはなにも要らないと思わせてくれる人。そうだ、私はカツヤのことが好きで好きでたまらないのだ。きっとカツヤもそうに違いないのだけれど、カツヤは言葉にしてくれないどころか否定するのが癪にさわる。
「あなたにはオレなんかよりも相応しい人がいますよ。だからそんな勘違いをしてはいけません。」
好きだと言うだけで、何故かカツヤはとても苦しそうな辛そうな表情を浮かべ、その感情をかき消すように眼を瞑って首を振るのだ。
私はカツヤにそんな顔をして欲しくなんかないのに。どうして外に出ましょうなんて言うんだろう。仕事の虫のお前をただ家で待っているのが辛くない訳ではないけれど、私はお前しか欲しくないんだ。勘違いなんて酷いことを言わないで欲しい。だってここには私たちしかいないのに。誰に遠慮する必要があるんだ?そう、私の世界にはカツヤしかいないのだから。私を子供だと思って侮っているんじゃないか、そんな鬱積が溜まりに溜まって、暴発した。
「お願いです・・・やめてください・・・あなたはこんなことをしちゃいけないんです・・・」
啜り泣き混じりの懇願も、暴走した欲望の前ではなんの力も持たない。カツヤの食事に睡眠薬を混入し、昏睡したところを苦労して縛り上げ、眼が覚めた所に襲いかかって今に至る。やっと・・・心の中でこの時がくるのを待ちわびていた私は、何ていやらしい人間なんだろう。けれど、カツヤが否定し続ける私の想いを証明するにはこうするしかなかったのだ。といいつつ、私は緊縛した肉体を眺めながら欲情していたのだけれども。
「馬鹿にするな、私は子供じゃないんだぞ」
ネットで得た知識を総動員して、カツヤが気持ち良くなるように色んなところに触れてやると、甘い喘ぎ声が漏れてきて嬉しくなる。生憎、私の肉体ときたら貧弱もいいところで、豊満な乳房や魅惑的な腰の括れなど持ち合わせていないけれども、視覚で誘惑ができないのならば触覚に訴えればいいのだ。
いつしか夢中になって彼の肉体を貪るように舌を這わせ、指を躍らせて、知識ではない肉体の欲望が内から染み出してくるような不思議な感覚に陥っていた。私はコレを知っている・・・いつかカツヤが私に言い聞かせたことをぼんやりと思いだしてきた。私は辛いことがあって、色んな事を忘れてしまったんだと。それで、私が記憶を取り戻すまでカツヤが傍についているのだと。
だったら何も思い出さなくていい―きっぱりと言いきる私に、カツヤは痛みを堪えるような微笑みを向けたのだった。
胸が苦しくなるような想いを、恋というのではないのだろうか。
「あ・・・み・・・さん・・・っ・・・」
私の下で身動きもとれず、身体を震わせているカツヤのことが愛おしい。快感からだけではない涙を流すカツヤを、慰めたいと思うのは傲慢だろうか。きっと私がカツヤを苦しめている。けれど、カツヤが苦しいのは、辛いのは全部私のためを想ってのことだと私は分かっているのだ。カツヤ、だったら私はどうすれば君を幸せにしてあげられるんだろう。
吸い寄せられるように、薄い血の色を滲ませた唇に触れてみる。思いがけなく柔らかなそこは、煙草の匂いがした。ぎょっと眼を見開いて、カツヤはようやく私をみてくれた。そうだ、カツヤ。私を見ろ。私だけを―余計なことは全部忘れてしまえばいいじゃないか、お前も私のようになればいい。カツヤが揺れている。私の目を見る度に、彼の奥底で揺らめく焔が、今も燃えている。きっとその焔が私を壊したんだろうと、少しは恐ろしいが、ただそれだけだ。私は何も知らない。否、私はお前しか知らないんだ。
「償いなんて、私は要らない。欲しいのはお前だけだ、佐伯克也―君が欲しい。」
口を開けば高飛車な物言いしかできない自分が歯がゆいけれども、何もかも捨てて、それでも捨てきれなかったものがあるとしたら。何もかも失くしてしまった私が、私自身を委ねられるのは。目の前にいる情けなくも頑固なこの男だけなのだと思う。お前が私をこんな風にしたのなら、それはお前が私を好きだからじゃないのか、カツヤ。
「・・・ごめんなさい。」
いつものように、カツヤは私の言葉に乗せられることなく、あっさりと謝罪を述べるだけ―そんな風に装ってはいたけれども。
私からのくちづけに頬を染め狼狽した君の表情はとても可愛らしかったことを、見逃してなんかやらないぞ。
「君は馬鹿だな、こういうときは“ありがとうございます”というんだ。」
こうすれば何か変わるかもしれないと思ったけれども、私たちの関係はそうそう変わる訳もなく、困ったように笑って誤魔化すカツヤに憤る私、お決まりの展開を経て決着してしまうのだった。
拘束具を外しながら、悪戯心がまた騒ぎ出して、私はカツヤをいつものようにからかっていた筈だったのだが―またヤりたくなったら、シてもいいだろうと囁くと、酷く真面目な顔をして君が告げた言葉を―私はきっと一生忘れられないだろう。
「もしも我慢ができなくなったら、またオレを縛ってからにしてくださいね。」
サエキカツヤ、優しくて可愛らしくて、どんなに迫ってもつれない、それでいて不可解な大人の男。今の私では、まだまだ太刀打ちできそうにないな。
*おわり* 

メガミドノマなロリ部長続編「ロリータ 2(マイ・フェア・レディ〜2nd round〜 改題)」


20100712
恋の悩みというのはありふれていて独創性など皆無に等しいものばかりではあるのだが、私たちのような関係はいささか特殊ではある。
とはいえ、私の悩みはとても平凡で幸福な類のものらしい、ネット上に溢れた情報を掻い摘むとそういうことになりそうだと思う。
「なあカツヤ、君はその・・・どうして否定しかしないんだ、嫌とか駄目とか・・・やめて、とか。」
所謂“情事”の後、いつもつまらなそうな表情でカツヤは私の身体を拭いたり、自分の体を拭ったり、シーツを取り換えたりする。
(ああそうだ、最初に言うのは「もう終わりにします?ならコレ、ほどいて下さい」とかそんな色気の欠片もない言葉だったか。)
そういう時は大抵酒の入ったグラスを片手にちびりちびり遣りながらで危なっかしいとは思うのだが、私は殆ど寝返りを打つので精いっぱいの力しか残っていないので、手伝うこともできないのだから、仕方がないと諦めていた。
「・・・“嫌”ですか?」
「ああ、そうだ。」
どちらも無駄なことを嫌う為か私たちの会話はいつも単語ばかりで、端的にしか情報が伝わらない。
長ったらしい口説き文句が欲しいというわけでもないのだが、少々物足りないと思うのは贅沢だろうか。というのも、カツヤは仕事中は殊に饒舌で、聞く者を虜にするような弁舌たるや絶品で、なぜその能力を私に向けてくれないのかと悔しくて、電話の向こうの仕事相手に嫉妬する位だからだ。
―こんなの嫌です・・・お願いだから、やめて下さいっ・・・そこは、駄目、ですぅ・・・と、まあこの位ならば私だって興奮もするし、カツヤを意のままに蹂躙する征服感に酔うことも吝かではない。
しかし、度が過ぎると不安になってしまうのは普通の感覚だと思うのだが。目の前で不思議そうに首を傾げるこの男には理解できないのだろう。なにしろ、常人ではないのだから。
「俺、いつそんなこと言いましたっけ?」
「さっきの・・・セックス・・・の時も、というか殆ど毎回だ!言い逃れはできないぞ、これが証拠だ!」
悔しい。また乗せられて卑猥な単語を吐かされてしまった。だが私の手にはICレコーダーがしっかりと握られている。恥ずかしいし、はしたないとは思ったけれども、これくらいのことは私にだって許される筈だと思ったのでとうとう実行に移してしまった。
『・・・して、許して下さい・・・嫌だっ・・・あうぅ・・・ごめん・・なさい・・・』
無論、不慣れな私が録音したものなので、私自身の嬌声や荒い呼吸音などもしっかり入っていたのだけれど、その部分は省く・・・というか、あえて目を瞑ろう。
「自分で録ったのに、恥ずかしいんですか?」
「うるさい、黙れ、この唐変木!」
おそらくは茹で上がったタコのように真っ赤に染まっているであろう私の頬を示す無神経な指を叩き落として、わざとらしく目を瞠った端正な顔に浴びせかけるように怒鳴ってやった。いつもいつも、私の言いたいこと位察している癖に、意地悪な奴だ。平常時は怖いくらいに優しくて、先回りして何でも言うことを聞いてくれるのに、事後はこんな風に振る舞う男なのだ。(悔しいから、ついつい平常時に我が侭をいってわざと困らせてしまうのも仕方がないではないか。)
「あなたはお嫌いですか、こういうプレイ。俺は好きなんですけどね。」
「プレイ・・・だと?」
「ええ、燃えませんか?それとも“堪忍してぇ〜ッ”とかの方がよかったですか。」
不意に脳裏を過ったのは、日本製AVで連呼される“イヤ”とか“ダメ”などの単語はひろく中国の男性に浸透しているだとか、アメリカ製のAVでは規制のために和姦しか表現できないので“come on!”だとか“yes, oh yes!”だとかの肯定語しか使えないのだとか、まったくもって無駄な知識だったのだが、それとこれとは全く話が違うだろうが。それに最後のソレは官能小説じゃないか。便利ではあるけれども、ネット経由で増えていくのはこういった無駄な知識が多いのが難点だ。
「貴様・・・いい加減にはぐらかすのを辞めたらどうだ?この臆病者!」
「それ、終わってから言うことですか?あなたも興奮してたくせに・・・認めたくないだけなんでしょう?この、変態。」
腹が立つことに、カツヤは私のことをよく見ているのだと思う。
嫌だと言われる度に、認めさせたくなる。やめてと言われればもっと。駄目だと聞くと、一緒に堕ちていきたくなる。素直じゃない私たちには合っているのかもしれないけれど。けれど、聞きたいのはそんな上辺だけの否定じゃないんだ。
「たまには“イイ”とか“好き”とか言えないのか、この天邪鬼!」
自我を失ったかのように乱れて見せても、いつも私に合わせてくれている。その美しい眼が気遣わしげに私を見る度、裡から欲望が煽られ、快感が増幅するのはごく自然な生理現象だろう。からかうような言葉も、怒りを煽るようなことばかり言うのも、全てはカツヤの手管なのだ。そう、凡ては抗いがたい誘惑なのだ。
「好きだなんて言える訳ないじゃありませんか“お嬢さん”そんなに俺をロリコンにしたいんですか?」
ロリータ・コンプレックス、日本では小児性愛者を描いた小説の題名を引用したこの言葉が広く知られているが、私とカツヤの関係はこの小説とは似て非なるものだと思えてならない。なぜなら―
「私は子供じゃない・・・“お嬢さん”でもない・・・わかっているくせに、どうして君は・・・っ!」
何を言っても言い訳ばかりなのだ。“未成熟”な私の体はカツヤを排泄器官で愛撫する。“成熟しすぎた”私の体は悦びに震え、濃厚な愛液を垂れ流す。ただ好きだというだけでは足りなくて、重ね合う二度目以降の情交、その後には何も残らない。
「ふふ、確かにあなたの身体は大人かもしれないですね・・・でも、心はそうじゃないでしょう?それに―」
波打つシーツのその只中に、溺れるように足掻く私を、変わらないカツヤの視線だけが繋ぎ止めているのだと思う。それが正気の世界か、狂気の世界かは未だ以て分からないのだが。
「あなたは可愛い俺の、俺だけの“お嬢さん”ですよ。」
馬鹿、と言いつつ頬が緩んでしまう私も、児戯に等しい睦み合いを愉しんでいるのかもしれない。そうだなカツヤ、こんなものは只のプレイだ―言葉を失くした処まで一緒に行かなければ。
私の可愛い男の、可愛くないことしか言わない唇を塞ぎ、抱きしめてもくれない手を戒めて、“変態”な私はアブノーマルな性交を再開する。
*おわり* 

御堂視点→N克哉「この酔っ払い共奴!」


20100720
そもそもの発端は、御堂が佐伯克哉を食事に誘ったことであった筈なのだが、今彼らはとてつもない喧騒の中にあった。
乾杯の際に手渡されたグラスビールは炭酸が抜けてぬるくなってしまっていた。呑む気もしなくて、手の中でグラスを弄んでいると、背後から大声で呼ばれ、その声の主を知って御堂は眉間の皺を増やした。
「御堂部長!あんたもちゃ〜んと呑んでくださいよ〜!」
酒の席というものは大抵何も言わなくても無礼講であり、それでありながらあまりにも酷い行動は後日咎められるのだから、社会というものは理不尽である。御堂は普段、こういった部内での酒の席というものには顔を出したらすぐ辞するようにしており、まあ部内で疎んじられているという思い込みからしていた行為ではあったのだが、新人の内ならともかく、いい歳をして若者と意気投合して大騒ぎをする輩の気が知れないと内心思っていたのもまた事実。
「五月蠅い。本多君、きみはいつも五月蠅いんだから、たまには黙っていたまえ。」
ほろ酔い状態の御堂が仏頂面でそう言えば、本多はにやにやと笑って御堂の赤く染まって幾分か緩んだ顔を眺め、酔ってるみたいですねと言って肩を竦めた。そういう本多も目元が赤く染まっており、動作が少々緩慢になっているからある程度は酔いが回っているようだった。
ぐるりと周囲を見渡せば、座敷の中の連中は皆それぞれ酔っており、常態を失しているように見えた。御堂はぼんやりとした頭の中で、実現できなかった計画をなし崩し的に実行してしまおうと決心をし、ふわりと立ち上がるとその男の隣まで進み、乱雑に腰を落とした。
「佐伯君、ちょっと付き合ってもらおうか」
ぱちくりと瞬きをする目の前の男は、どれだけ御堂が言葉を尽くして誘っても、ビジネス上の表情を崩さなかった小憎らしい若造だった。
「御堂部長・・・酔っぱらってます?」
実際は忘我の域まで達していなかった御堂だが、いかにも酩酊状態にあるように振る舞い、軽蔑していたオヤジ達がするように、乱暴に克哉の肩に手を回して密着した。くすくすと困ったように笑う克哉の隣には、やはり少し酔った片桐がいて、御堂を心配そうに覗き込んだ。
「おやおや・・・僕はお水をいただいてきましょう。佐伯君、御堂部長をよろしくお願いしますね。」
あからさまに酔っ払い扱いをされて、御堂は内心憤慨したが、酒の席でならある程度の突飛な行動をしても構わないというこの国の“よき慣習”に倣い、片桐が席を立ったのをいいことに克哉の身体を撫で回して匂いを嗅いでやった。
「人を酔っ払い扱いするのなら、君も呑んだらどうだ。いっしょに酔っ払えば気にならないだろう。」
適当なことを言って、覚束ない手つきで克哉のグラスに溢れる程ビールを注いでやると、ようやく克哉は相好を崩し、御堂の脇腹を肘で小突いた。
「あなたは酔いすぎです、御堂さん。」
軽く睨みつけるようにして、克哉は御堂の目を覗き込んだ。少し砕けた冷やかさで以って、無意識に御堂を幻惑しながらも、当人は御堂の心中などまるで察してくれようとはしないのだ。なんて憎らしいのだろうと恨んでみるが、的を外れた思いなど虚しいだけなのは本人もよく分かっていたので、それ以上の行動に出るのは止めておいた。
「君は冷たいな。」
不意に口を吐いて出た言葉は、妙に深刻な色を帯びていて、言った御堂は克哉の反応を窺いつつも心中穏やかではなかった。急に酔いが回ったように体中が熱を発して、鼓動が早鐘を打つ。遊びのつもりだった。からかって翻弄して、玩具にしているつもりだった筈なのだが、いつのまにか御堂はかなり本気で佐伯克哉に執心していたのだと漸く気付いたのがこの瞬間だったというのは、遊び人との呼び声高い彼らしからぬ失態だったのだろう。急に自分の馬鹿げた行為が恥ずかしくなって、克哉の傍から逃げ出したくなり、御堂は克哉を手放した。
「おやおや、お邪魔でしたでしょうか〜?」
戻ってきた片桐が差し出した水を、俯いたままで飲むと、まるで日本酒のように甘い香りがした。克哉は片桐とそんな御堂の様子を見遣り、くすくすと笑い声を洩らした。
「ねえ片桐さん、オレって冷たいですか。正直に言ってください。・・・だから彼女ができないんでしょうか。」
大げさに深刻ぶった声色で、克哉は片桐の手を握りしめながらそう言ったのは、どうせ当て付けであろうとは思いつつも、その手が気になって仕方ない御堂は愚か者であった。片桐はいつもの調子で克哉を慰めるのだが、今夜の彼はなかなか納得しない様子であった。只の当て付けというにはどこか真剣な克哉の表情を、それまで御堂は見たことが無かった。
「いつも言っているでしょう。佐伯君には佐伯君のいいところがあります。いつか分かってもらえます。だから、焦ってはいけませんよ。」
「でも・・・」
「俺は好きだぜ、克哉ぁ〜!」
完全に酔っ払った本多が覆いかぶさるように抱きついたので、克哉は声を荒げて抗議した。本多に対する克哉の態度は普段よりも遠慮がなく、克哉もまた酔っ払っているのが御堂にもわかった。
「やめろバカ本多、こぼれるだろ・・・お前がこういうことするから、オレはいっつも誤解されるんだ。」
冷やかな視線にも動じず、力の限りに抱きついてきた本多に成す術なく、克哉はため息をついた。ろれつの回らない本多が、克哉があまり飲んでいないのではないかというようなことを言い、終わりには“最近付き合いが悪くなった”という意味の恨みごとを付け加えた。御堂はこれまでに得た情報を、焦点の合わなくなった思考の中に放りこんで、無謀にも組み立てようと試みていた。
「今日だってお客さんにおカマ扱いされて、挙句にお前がガチh・・・ともかく、お前のせいで迷惑してるんだ、べたべたひっつくなよ暑っ苦しい!」
言葉の内容はともかく、本多の身体の下で身を捩る克哉の姿態が妙に艶めかしく見えるのは自分だけではないのだと知って御堂は安堵した。御堂が遠回しなアプローチをしては、同じく遠回しに“ノーマル”な嗜好であることをアピールする彼だが、その点に関しては甚だ懐疑的にならざるを得ない。少なくとも外見では、彼は所謂“二丁目”系の人間にしか見えないからだ。有体に言えば、そう云った界隈で夜の仕事に携わっているように見えるし、営業マンよりもよっぽど似合っている。初対面の時からそんな印象を抱いているということを知られたら軽蔑されそうなので―いくら御堂でもその位の分別はあるので―黙っているのだが。
「オマエさ、何かこれから用事があるんだろ。誰だ。男か、女か。」
散々浴びせられた罵声は無視して、本多は暗い顔で呟いた。まるで問い詰めるような、深刻さを露わにした様子に、御堂はその想いを察してしまい、頭痛を覚えた。本多、お前もか。
うんざりとした表情で、本多の追求を聞き流していた克哉だったが、ふとした拍子に何かを思いついたように唇を歪め、言い放った。
「まあ、役立たずって蔑まれるのは嫌だしな。」
悪戯めいた表情で、片桐に迫るようにしてあからさまな言葉を使う克哉の様子は、普段とは印象がまるで違っていて、周りの者を唖然とさせた。
「さ、佐伯くんったら・・・」
目を白黒させて狼狽する片桐の様子を楽しそうに眺めながら、克哉は形だけ謝って、更にとんでもなく奇妙なことを言い始めた。残念ながら、目下オレには彼女も彼氏もいませんけどね―と前置きして、克哉は表情を一変させる。仄暗い、薄気味の悪い笑みを浮かべた彼が纏う雰囲気に当てられて、人いきれの生ぬるい空気が、一層淀んだようだった。
「たまにね、オレがアパートに帰るとそいつが居ることがあるんですよ。鍵はちゃんと閉めて出てるのに、いつの間にか鍵を開けもしないで、そこに入り込んでいるんです。おかしいな、と最初の頃は思っていたんですけどね。だけど、昔からそういうことはよくあったので・・・今ではもう慣れちゃったのかな。人間じゃないということはすぐに分かりました。そいつは・・・まるで人間のような温かみがないから、冷たい人間のオレにとっては居心地がよかったのかもしれないですね。おかしなことに、そいつはオレのことをまるで友達か恋人みたいに思っているらしいんです。」
美しい、人の姿をしているのに、確実に人ではないモノ・・・けれど恐ろしくはないのだと克哉は嘯く。底知れない妖しげな微笑みで場を制すると、一拍置いて、克哉は静かに話を続けるのだった。
「―そうしたら、背後から気配が消えて、水滴がポタリと首筋に―」
「幹事さ〜ん!」
呑まれるように克哉の話に聞き入っていた3人は、本多を呼ぶ大声に驚いて我に返った。ゴクリと唾を飲んで、幾分青ざめた表情で本多は席を立った。片桐などは至近距離で語られたものだから硬直してしまっている。御堂にしても、そういった類の話に興味がないとはいえ、あまりに真に迫った克哉の弁舌に当てられて、なかなか思考回路が働かなかった。が、それはやはり怪談なのであろう、そう御堂は結論付けた。彼の家で待っている何者かの存在を有耶無耶にする為の、手の込んだ芝居なのだと。だから御堂は別れ際にそのことを訊ねてしまっている。君の家で待っている恋しい人は何者なのかと。その行動の意味も、意図も、まるで無視して佐伯克哉は答えた。
「誰も待ってなんていませんよ・・・人は、誰もね。」
振り返りながら浮かべた笑みを、月光に照らされて青白いまるで人間味の無い表情を、御堂は美しいと思った。
*おわり* 

<メガアキ「はじめてのひと」


20100816
俺にとって他人とは路肩の石も同然の存在だった。桜の舞い散るあの日、自分自身を閉じ込め、戒め、押し殺して生きると誓ってからは。
「ねえねえ、克哉さん・・・ここで叫んでもいい?大好きーって。」
少しずつ魂を削られて、脆い殻が砕け、自我がぐらぐらと揺らめいていたあの日、酒と自棄と“ラッキーアイテム”によって気が大きくなっていた俺は歓楽街に繰り出し、目についたクラブに入って迎え酒を食らっていた。
酒場で喧嘩などよくあることだし、いちいち止めに入ってとばっちりを食わうなんて割に合わない。普段の俺ならじっと息を潜めてやり過ごしたに違いない出来事だったからこそ、その逆を選んだのだろう。
「克哉さんってさ、魔法使いみたいだなって思って。」
蓮っ葉な風を装って、傷つかないように、退屈凌ぎをするその少年の眼は、克哉に向けられるときだけはきらきらと輝いて見えた。はじめは毛色の違う他人に対する警戒と観察、羨望、次には驚嘆と期待、渇望、感謝、そして好奇心。様々に色を変えては暗がりで光を放つ、その稀有な眼差しは、初めて克哉が欲しいと思ったものだった。
「ぼく・・・あなたがはじめてだったんだよ。」
そうでなければ欲しいとは思わなかっただろう。誰も知らない、触れられていない、未開の地を切り拓く愉しみに溺れながら、俺は予感していたのかもしれない。
その愉しみが、やがては若木を自分好みに育てる愉しみへと変っていくことを。なあ、秋紀。もしこんなことを言ってもお前は信じないかもしれないが、いつかは告白しようと思っていることがあるんだ。
「そんなの、克哉さんがすっごくカッコイイからにきまってるじゃん。」
もしいつか、お前に見えているような“カッコイイ”だけじゃない俺を見せてもいいと思える日が来たら。格好悪い俺を見ても、お前が離れていかないと信じることができたなら。冗談のようにして言ってみようか。
そう決めてから、俺は指折り数えてその日が来るのを待っている。あまりにも滑稽で、他の誰にも知られたくないけれど、お前にだけならきっと打ち明けられるだろう。
「今ね、世界中に見せびらかしたい気分。克哉さんはぼくの恋人ですーって。」
実はお前も俺の“はじめてのひと”だったんだと言ったら・・・秋紀、お前はどんな顔をするだろう。お互いがはじめてでたった一人だけの相手だと知ったなら、それは代え難い幸福だと感じてほしい。お前も。願わくば、今の俺が感じているように。
*おわり* 

眼鏡からは逃げられない!@pages版掲載SS・全12編 おわり。

めが☆にげ


は、もうちょっとだけ工事中なんだからねっ。                   web拍手 by FC2
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